終章
さてとて。ウチの自宅 兼 海軍ご用達鍛治屋の敷地内に 町の鼻つまみ者の一家が朝っぱらから総出でなだれ込んで来たっていう、すったもんだの大騒ぎは、とんでもない大人数でのドタバタだったとは思えないほどの…ほんの30分ほどという“あっと言う間”に方かたがつきまして。若い衆たちだって勿論のこと頑張ってくれたけれど、それにも増して。三刀流の使い手で腕の立つ剣豪のゾロさんや、コックさんなのに鋭い脚技が頼もしいサンジさん、とっても不思議なゴムゴムの腕や脚でのパンチやキックで大人数でもどんと来いって大活躍してくれたルフィ。あんな美人さんなのだけでなく、女だてらに悪漢たちに立ち向かい、片っ端から薙ぎ倒し捻り倒したナミさんにロビンさん、そしてそして、スリングショットは百発百中、時々火薬も炸裂させてたすばしっこいウソップさんと、がっつり大きなお兄さんになったり、立派な角で相手を山ほどまとめて引っかけては払い飛ばしたり、やっぱり大奮闘してくれたチョッパーにと。見物してただけでも十分に爽快な、そりゃあ頼もしい助っ人さんたちの大活躍にて、渡り剣士や用心棒をたくさん引き入れて厚みを増してた相手の陣営をこてんぱんに叩き伏せ。伸した順番の片っ端から、縛っては樹の幹へとくくりつけ、面倒だから昼にでも海軍の係官を此処へと呼んで引き取ってもらうことと相なった。ああ、うん。どうやら海賊さんらしいルフィたちが、無事に出発してった後からってことでね。
『そんな…そっちにばかり都合よくは運ばせないぞっ。』
海軍の係官を呼ぶのなら そいつに全部ぶちまけてやる、お前らが手配されてる海賊を庇って逃がしたとなッ。やけっぱち半分だろう、ウラナリがそんな事を吠え立ててたけれど、
『お前が何を言ったところで誰が信用すると思う。』
お兄ちゃんがきっぱりと言い放ち、
『俺の舟が引っ繰り返された一件への調査報告があるかもしれないことは、全く恐れていないのだな。』
こっちだって黙ってた訳じゃあない、ウチへ軍用剣の修繕や発注に来られる筋の知り合いに前々から話しておいたのだが、あまりに悪辣な…怪我をさせるような具体的な悪さを仕掛けるようなら、それをもって引っ括ってやるよと言われていたからな。あの件に関して届け出てあるんだよときっぱり言い切ったところ、
『う…っ。』
呆気ないくらいに口ごもってしまったから、やっぱり情けない奴だよね。そんなしてた一方で、
『ところで、Mr.タンヌキとお客人の大富豪さんとやら。』
こちらは別口の交渉中。
『あなた方、このお社から人目を避けて盗み出したご神体の“黄金の剣”へ、大枚要求して“買い戻せ”だなんて無体をぬけぬけと言ってたそうねぇ。』
大会用にと新しく傘下に引き入れたクチの渡り剣士や賞金稼ぎという荒くれども、腕っ節を見込んだ輩で固めていた陣営を頼みに、余裕をもって雪崩込んで来たのだろうに、結果はこれこの通りという情けないばかりのこの窮状。この展開に青ざめて、助っ人はともかく実の息子のウラナリまで見捨てて逃げ出そうとしかかっていたところを、ロビンさんが“咲かせた”沢山の腕にグルグル巻きにされてしまい、真っ青になったタンヌキ親父。
『これ以上の罪状が増えても構わないとは、なかなかの悪党じゃあない?』
でもね、ご存知かしら。単なる諍いではない、組織だった“計画的な暴力沙汰”は、その資金の流れを最後まで追われる。もしも海賊に連なる結社などへのつながりが発覚したなら、あなたたちもその“係累”扱いになってしまうってこと。今回の騒動、何だったらその辺りの詳細の方も海軍の調査官に陳情してあげても良いんだけれど…と、うふふんと懇切丁寧に説明してやったロビンさんの、そりゃあ優しい猫なで声に、
『めめめ滅相もない。///////』
息子と違って親父さんの方は、たいそう素直に…ルフィくんたちを相当恐ろしい海賊だと思ったらしく。………まぁねぇ。いかにも手入れが良さそうなつやつやのお肌の、うっとりするよな若々しい腕に頬を撫でられているとはいえ、それが何十本も…ウロコのないニシキヘビみたいに巻きついて来ていて、息も出来ないほどと来てはね。ちょっとばかり不気味には違いないってもので、そういう仕打ちから一刻も早く解放されたかったのか、一昨日、ナミさんたちが主催者の会長さんから貰ったまんま、右から左ってノリで支払った賞金の500万ベリー、耳を揃えて全額お返し致しますと、お財布ごと差し出して来たの。こんな修羅場にまで持って来ていたのは、問題の“お宝”を手に入れたらそのまま直行で島からトンずらするつもりだったからだそうで………あ、そうよそうよ。うっかり忘れてた。
「そうだった、お宝だ。」
またまたうっかりと忘れてた。庭へと向いた濡れ縁を大きく開け放った母屋の広間では、祠の石室前にある社へと詣でるお爺ちゃんたちが準備にってことで引っ込んでいるのを手伝うため、お母さんや事務方の若い衆たちがばたばたと忙しそうにしているのが見える。ああ、いよいよなんだわ♪
「祠が開くのか? 。」
ワックワクな想いからだろう、大っきな眸が明け星みたいにキラリンと輝いてるルフィに訊かれて、
「そうよ、いよいよなのよ♪」
あたしの方もドキドキと興奮し始めていて。チョッパーやウソップくんと手をつなぎ、デタラメな節で歌いながら輪になって跳びはねちゃったほど。そんなあたしたちを…縛り上げられたまんまで歯噛みしながら見上げてたタンヌキ親父へ、
「勿体ないことだけれど、お前らにも見るだけは見せてやるからな。」
にししっと笑ったルフィだったことへ、でもでも、こんな現状では怒るに怒れず。がっくりと首を項垂れさせ、何とも言えない情けない顔になった連中でございましたvv
◇
さあさあ、それからが いよいよの、メイン・イベントの始まり始まり♪ 古くから伝わる暦に則っての計算で、何年何月のみならず日付まで きっちりと60年目。陽が昇る前で薄暗くって、海もお山も、そして空も、黎明とかいう青みがかった色合いにムラなく染まってるばかりの、まだまだ朝も早い時間帯。少しでも木立ちが途切れれば、眼下に広がる港町と、それからその向こうに広がる藍色の海が遠く遠くの水平線まで見渡せる丘の上には、風に乗っての潮騒の調べと磯の香りがほのかに届く。さっきまでの喧噪も、今はすっかりと掻き消えて。どうかすると厳かなくらいの静けさに包まれている中、昨日の昼下がりから始めた儀式で“禊みそぎ”をして体を清めていたお爺ちゃんとお父さんとが、丘の上のスルタンの祠へと続く長い石段を登ってく。黎明の青の中に、純白の衣装に包まれた背中が浮かび上がって見える。二人とも2つずつ、角樽のお神酒を抱えての参内で。隧道の奥の突き当たり、収め直された御神体“黄金の剣”のある社にご祈祷を捧げ、縁起書に書かれてあった通りに手順を進めていって。蔵から出して来た三つ一組の杯を、白木の三宝の上へと重ね置き、一番上へそぉっとそぉっとお神酒をそそいでゆく。あふれ出してもどんどんと、角樽に4つ分のお神酒をそそぎ続けるとね。社の周囲に掘られた溝へ、そのお神酒はするすると流れて行って。乾き切ってる石の溝に、なのに染み込んでしまわないまま、そこから隧道の両脇の溝へと続いた流れは外へまで連なり。お正月のお鏡餅みたいな格好で中腹に段差があって くびれた丘の真ん中へと達してる、長くて高い石段の、一番上へと達すると…あら不思議。
――― ずぅん…、ごごん、ごおんごぉん………。
丘を取り囲む林の中から、まだ寝ていたんだろう小鳥たちが“ばたばたばた…っ”て次々に羽ばたいて飛び立ち始め、足元のずんと遠く遠く深いところから、空気まで震わせるような地響きが唸り始めて、それからね。
「…キャッ!」
「わっ、わっ!」
「地震かっ?!」
足元の地面がどんって1回だけ大きく震え、それから“ゴォ〜〜〜ッ”っていう地響きが間断なく続いたの。何て言えば良いのかな。音が出っ放しのスピーカーの振動? あんな震えがずっとずっと地面の上で続いててね。でも、あれだけの大きなものが動いたのにこれだけの揺れで済んだのは、どうかすると奇跡かもってナミさんは感心してた。
『だって岩盤が見る見る動いたのよ? それも、何mも一遍に。』
そう。皆で見つめてた丘の、上半分の頂上部分が…まるで天文台の望遠鏡用の大ドームが開くように、隧道への入口を境にパカッとね。ゆっくりゆっくり左右に分かれたんだよ? 大きな大きな都会の島には、大きな川の下流なんかに、大型船を通過させるための稼働式の橋なんかがあるそうだけれど。そういった仕掛けなんて、どこにもついてないのにね。あんな大きな岩が、ううん、小さめの山くらいもある丘がサ、勝手に動くなんて信じられる? しかもね、
『あれほどのことが起こったなら、同じ岩盤の上に連なってる島全体が揺さぶられたり、家や何やが片っ端から倒壊したって不思議はないのに。』
これはもう立派な“地震”で、大災害が起こっても訝(おか)しくはないほどのことなのよと。ナミさんはそこまで深いところを差して“不思議なことだ”とばかりに驚いてたようだけれど。何しろ…スルタンの祠が守ってる“伝説の岩屋”なんだから、
『こういう仕掛けも有りなんでない?』
だって、そうまでの災害があったなんて記録や言い伝えはないんだもの。昔のことだって言ったって60年なら、その目で見ていて覚えてる人がいても良いほどの“近い昔”なんだし、
『こんな小さな島なんだから、そんなとんでもないことが起こっていたなら、きっちりと言い伝えが定着してるだろうし、爪痕だって残っている筈よ?』
だから、これまでのご開帳の時にもきっと無事だったに違いないと。きちんと論を尽くして応じたのはロビンさんで。あたしやルフィ、ゾロさんやサンジさんたちに至っては…現に地響きだけで済んでて何ともないじゃないなんて言って、そんな理屈なんて知らないとばかり、軽く受け流してしまいました。…あははvv それだとあんまりにも楽観的過ぎだったかな?(苦笑)
「………お、止まった、かな?」
ごうんごうんと轟いてた地響きは、10分ほどで鳴りやんで。眺めてた丘の異変の方も同時に止まった。さぁさ、儀式の方も次の段階。石室に収められてる書物や宝物の確認と虫干しと、それからお掃除もしないといけないから。礼拝が済んで2時間ほどは開いてる石室に、神主や聖職者以外の立場の者も入って良いってことになっており。それでも…あんまり広くはないので、目利きが出来る人と限っての代表、ロビンさんとナミさんが、聖酒で清めた帯を服の上から締めて若い衆たちと一緒に上がってった。そしてそして………。
「縁起書には記載がない箱なんですって。」
一番最初に降りて来たのが、妙に弾んだ声のナミさんだけ。その後から、若い衆たちに担がせて、下まで運び出させたのが…そりゃあ大きな箱。古い“長持ながもち”って感じの、重たげな蓋がついた大きな木箱で、でもね、旅籠はたごの風呂桶みたいに結構大きいの。儀式前に確認しといた宝物の中には記載もなければ、前の儀式を手掛けた神職さんから“御式次第”を引き継いだお爺ちゃんにも覚えがないとのことだったので、これが今回の問題になっている代物だろうと、検分に入った全員の意見が一致し、
『祠に関係のないものなら、儂わしらには関わりはないし関心もない。』
お爺ちゃんがそう言ってたのでと、点検やお掃除の邪魔にならぬよう、一足先にとっとと持ち出して来たのだそうで。…ってことは?
「これがお宝なの?」
「お宝か?」
「お宝っ!」
「早く開けようぜっ!」
待機していたあたしたち、揃ってワクワクと声を高めた。そんな気配に気づいたか、タンヌキの親父は歯咬みしつつ、ウラナリ息子も恨めしそうにこっちを見やってて。まさに手も脚も出ない状態だもんね。悔しかろうけど、これは仕方のないこと。それよか…彼らが御神体の黄金の剣や500万べりーの賞金、山ほどのならず者を雇った資金さえつぎ込んでまで欲しかったものって、一体 何だと思う? 皆して妙に はしゃいじゃってて、縛り上げた賊どもを見張ってたゾロさんやお兄ちゃんまで、どこかしら…愉快でなんないっていうお顔を隠し切れてなかったしね。
「お金や黄金とか、そんな俗っぽいものだったら興冷めしちゃうよね。」
「おっ、いいこと言うよな、vv」
「そうだよな。何かこう、世紀の大発見っぽいお宝だといいな。」
「何だそりゃ、ウソップ。」
「だからよ。例えば、有名な偉人の残した記念品とか。」
「意外とミーハーなんだな、お前。」
「じゃあ、サンジは何だと良いんだ?」
「そうさな、超絶美人の女神像とか…。ああ、でも生身の方が断然いいけどな。」
「なんだそりゃ。」×@
「俺は、珍しい植物の本とかだったらいいな。」
「さすが、お医者さんだねぇ。」
「ずっとずっと昔の古くからのものじゃないなら、それも有りかもだね?」
「そぉかっっ!」
ワクワクと言いたい放題を並べつつ、ナミさんが蓋から下がってた大きな南京錠を開けるのを待つ。女の子のお弁当箱ほどはあった大きな錠前だったけど、
「…よっ、と。」
白い小さな手が器用に動いて、何本かの針金だけであっさりと開けちゃうんだもの、凄い凄いvv 穴を合わせてあった金具から錠前の棒を引っこ抜き、かぶせ型の大きな重い蓋を傍らにいた若い衆が2人がかりで持ち上げる。……………わぁ〜〜〜vv いよいよだよォvv ドキドキが最高潮に達してしまい、どうしよどうしよってチョッパーやルフィと一緒にジタジタって地団駄踏みそうになっちゃったんだけど。
「……………はい?」
え? 何なに? どうしたの? ナミさん。何か…頓狂な声を出したりして。
「どうしたよ、ナミ。」
「勿体ぶってないで俺たちにも見せろよ。」
「取り出せないほど大きなものが入ってるんですか?」
箱の傍ら、間違いなく中を見下ろしてるナミさんだったけど、でも…嬉しそうというお顔じゃないのが気になる。ナミさんは色々な宝物を見て歩いたキャリアがあるとかで、そんなせいで博物館の学芸員さんになれるほど目が利くそうだから。判りやすい黄金やお金や宝石じゃなくたって…骨董とか古書なんかの価値もある程度は判るのだそうで。なのに…そんな固まってしまって、一体どうしたの?
「まさか、何にも入ってないとか?」
え〜? そんなのってないようと。皆で顔を合わせてから、ぱたぱたって傍らまで駆け寄ってみる。すっかり朝日も昇り切り、明るい光が降りそそぐそんな中、皆で覗き込んだ箱の中に入っていたのは………。
「………これって…巻き貝?」
随分と古ぼけて乾き切ってた、色んな形の巻き貝が…20個ほども入ってたかしら? それと、こっちも煤けた何だか仰々しい機械の塊りが1個。あとは…綴り本が数冊。表紙には、
「電信術的不思議虫、解説の書…だってよ。」
え? それってまさか…。あっと気づいた あたしへ、ナミさんが大きく頷いて見せ、
「そ。どうやらこれって、電伝虫の解説書と制御用の機械みたい。」
それも、初号機タイプのね。古いものではあるけれど、骨董品というよりは単なる中古品。道具屋に持ってっても、あんまり高値はつかないと思うわよ…とのことで。
「………え?」
でも…ねぇ。これを欲しくてってことで、手持ちの全財産投げ打ってでもってノリで、あれこれ構えて頑張ってた方々がいたほどのものな筈なんですけれど。
「60年前は、まだそんなに広まってなかった“珍しいもの”だったんじゃないのかな。高価で、そうね、扱いも専門知識が必要なほど難しかったのかもしれない。」
でもでも、それまでの通信機に比べれば。格段に性能がよく、使い勝手は簡単であり。画期的な文明の利器には違いなく。きっと当時は限られた人しか知らない“宝”だったのだろうから、
「何らかの…そうね、あまり公正ではない方法で手に入れた人がいて、ほとぼりが冷めるまで此処に隠しておこうって思ったんじゃないのかしらね。」
肩をすくめたナミさんのお言いようへ、はぁあと肩を落としたのがルフィとチョッパーとあたし。くすすと吹き出したのがゾロさんとサンジさんで、そして…。
「………お?」
何にか気づいたような声を出しかけたウソップさんへは、でもでも、ナミさんがそのまま射殺せるんじゃないかってほどの鋭い流し目で制止して見せて。そのまま、真隣りにいたあたしへにじり寄ると、
「い〜い? 。
残念だったなぁ詰まらないものしか入ってなくてってお顔でいなさい。」
そんなことを囁いて来た。………え? どゆこと? キョトンとしたあたしへ何度も何度もウィンクをするので、う〜ん判んないけど、ま・いっか。
「何だ、電伝虫と解説書なの。」
今時じゃああ珍しくも何ともないのにね。60年前の人には虫を通してお喋り出来るなんて、手品みたいに珍しかったのよ、きっと。でもって、誰にも内緒にしときたくって、此処に隠してサ、子孫とかに さも凄いことみたいに言い残したんじゃないの? 何だなんだ詰まらないって、せいぜい残念がって見せたところが、
「な…っ。」
背後で妙な声がして、それからね、
「お、親父っ、しっかりしろっ!」
ウラナリ坊っちゃんが悲鳴を上げてる。おやや?と振り返れば、あたしたちの会話を聞いたタンヌキ親父。余程のことビックリし、それから…大層ガックリ来たのか。その場で白目を剥いて、あっさりと気絶していたそうである。そりゃあなぁ、今や、都会島では携帯タイプのが出回っているってほどに、在り来りな代物だもんなぁ。そんなものへ、家運の挽回を賭ける勢いで、大枚突っ込み、危ないことへも手を出して…この様ではねぇ。勝手な悪巧みの結果なんだから、それに脅かされてた あたしたちにすりゃ“ざまあみろ”ってもんだけどvv
…………… で。
ウソップさんに素早く口止めをし、ナミさんが妙なことをあたしへ囁いたのはね。長持の中に入ってたのは、電伝虫と解説書…だけではなかったからなの。
「ダイアル?」
枯れちゃった電伝虫だと思ってた巻き貝は、実は実はそうじゃなくって。
「そ。これはね、空の上にある“スカイピア”ってトコにだけある、そりゃあ不思議な巻き貝なのよvv」
祠のある丘の麓から、問題の長持を担いで戻ったあたしんチ。ほとんど庭続きってほどに間近い距離ながら、それでもわざわざ離れたのは、此処からの話をタンヌキ一味に聞かれたくなかったからで。でもって、
「空の上?」
いきなり何を言い出すかなって、怪訝そうな顔になったあたしへ、
「、あたしが今まで嘘を言った?」
「いや…言ってない。」
真剣本気という迫力にて、きりりと睨まれてはね。よくよく思い出す前にも咄嗟にそうと答えてたよ。だって、あのゾロさんを黙らせるほどのナミさんて、やっぱ怖かったしさ。これも防衛本能ってやつなんだろね。こらこら この貝は、そんな御伽話みたいな世界が産地だっていう代物だそうで、
「不思議な土地だからそんな性質を持ったのか、これはどれもが色々な能力がある貝なのよ。」
ナミさんが言った後をウソップさんが引き継いで、
「こっちの本にしてもな、電伝虫の解説書は1冊だけで、残りはダイヤルの使い方の説明が載ってる。」
そう言って、開いたページに載っていたのと同じ形の貝を手に取ると、簡単に説明しといてやるって言って、
「ほら、ここ。真ん中を押しながら、何か喋ってみな?」
「え?」
何かって言われても…急に言われてもサって言い返したら、カチッて貝の真ん中を押し込んで見せて、
「で、此処をもう一回押すと。」
【え? 急に言われてもサ】
あ…あれ? 今のって? あたしの声? これって録音機なの? こんな小さい、手に収まるサイズなのに?
「他のは他ので能力が違う。炎を溜めとける“フレーム・ダイアル”もあるし、光を溜める“ライト・ダイヤル”もある。こっちは…風かな?」
日頃使えそうなのばっかだ、こりゃあ凄いなと感心しているウソップさんであり…ってことは、どういうこと?
「だ・か・ら。燃料も蓄電器も要らないし、こんな小さいのに沢山のエネルギーを蓄えられる、そりゃあ不思議な貝なの。」
それも半永久的にねと、にんまり笑って、
「現物を見ないと信じられないような能力を持ってる道具だからね、それで噂も広まらなかったんだわ。」
ちょ、ちょっと待ってよ。…ってことは? えとえと、何かちょっと話の流れが飲み込めないんですけれど。混乱しかかってたあたしへ、その鼻先で別の…ライト何とかっていう貝をカチッと鳴らして、明るい光を灯して見せて、
「つまり、これは正真正銘、物凄いお宝には違いないの。」
これなら、スイッチを押したまま昼間中庭先に置いとけば、夜中ずっと電灯の代わりに灯しておけるって具合にね。空島から落ちて来たのか、それとも奇跡的に空まで渡航して戻って来れた誰かが持ってたものが、あちこち渡り歩いて来た結果として この島に隠されちゃったのかしらねって。今度は誤魔化すためのじゃない、そりゃあ綺麗なウィンクをしたナミさんであり、
「だから、良い? これは内緒にしときなさい。」
あのタヌキ親父は勿論のこと、家人以外にはあまり広めずに、の家で便利な道具として使えば良い。道具自体やこれがどうして此処にあるのかって経緯が目当ての、妙なマニアに狙われかねないから、あんまり他言しちゃダメよ? そんな風に重々注意を言い置いて、海軍の到着前に、そそくさと立ち去った皆さんだったの。大会の賞金だった500万ベリーと、ウチの母さんが賄いのお姉さんたちと炊き出しして、大急ぎで握っといた山ほどのおむすびとを抱えてね?
あ・そうそう。石室の中を調べてたロビンさんが目当てにしていた、何とかグリフっていう石板は、残念ながら此処には無かったんだって。
『60年前では年数が合わないから、あんまり期待はしていなかったのだけれどね。』
ロビンさんはそんな奇妙な言いようをしていて、あっけらかんと笑っていたけれど。年数が合わない? 20年ほど前に一度全てを集めたらしい人がいるみたいだから? う〜ん、何かよく判らないんだけれど、見る前から何となく分かってただなんて、頭のいい人って凄いなぁ。だって、初めて来たっていうこんな小さな島のことだし、しかもまだまだ20代くらいの若さなんだもの。最初から“知ってた”のではなく、色々と推理した上で自分の探してる物はないって判断した訳でしょう? 古代の遺物で、此処みたいにずっと守られたままのところは虱しらみ潰しに見て回ってるって人なのに、此処は違うって断じることが出来た何か。………60年間、閉ざされたまんまだったっていうのが鍵かしら? 20年ほど前っていうのはどういうヒント? 考えてみようとしたらば、
『お前には無理無理。』
お兄ちゃんに笑われたけど。(む〜〜〜。) 今はもう、皆して航路へと戻ってしまった彼らで。後で新聞とか調べてみたらネ、彼らって物凄く有名な海賊さんたちだったんだって。でもね、あたしたちはルフィたち本人と、直接に逢ってお喋りもした。こっちの窮状を知って協力してくれたし、ドタバタしながら色んな場面でいっぱい笑い合った。だから、海軍が追っかけてるような人たちだって言われてもサ、そんなの知ったことじゃないもんね。ルフィもゾロさんも、サンジさんもチョッパーも、ナミさんもロビンさんもウソップさんも。みんな大好きな人たちだもんね。だからだから、無事に旅を続けてね。そいでもって、新聞に載るような大活躍をいっぱいして、ほら元気だよって遠くのあたしたちへまで伝えてよね? 絶対だよ?
◇
お宝ではなく…自分たちには珍しいというよりも懐かしいものだった“ダイアル”とのご対面になった結末には、ちょびっとだけ肩透かしを食ったけれど。
「面白いトコだったよな〜。」
大暴れが出来たその上、大きな丘が地響きと共に真っ二つに開いた…だなんてとんでもない現象を、特等席で目の当たりに出来たし。祠から出て来たのも…地味ながらも“お宝”には違いなかったし。いっぱいワクワクしたせいだろう、両手に大きなおむすびを持ち、そりゃあご機嫌さんという様子でいるルフィと違い、
「…そうか?」
剣士さんには“めでたし、めでたし”と素直に飲み込めないご不満もある模様。大人数の無頼の者たちを収容するという“大捕物”にと駆けつけた海軍の船とすれ違うように、そそくさと島を離れて今はもう、次の島を目指しての新しい航路に乗っかっている彼らであり。周囲には行き交う船の影もなく、昼下がりの陽光の下、悪戯っぽい潮風が彼らの髪やシャツを擽りながら吹き抜けてゆくばかりという、それは穏やかなひとときなのに…。一体何に憮然とし、眉間のしわを深めていらっしゃる剣士さんであるのやら。
「何だよ、まだこだわってんのか? 不戦敗。」
あ、そっか。剣術大会の決勝戦。色々と裏に企みがあっての運びだったとはいえ、負けは負けですもんね。しかもその相手が選りにも選ってサンジさんだったと来てはねぇ。
「ナミが言ってたろ? 祭りの記録に賞金首の名前を載せる訳にはいかないって。」
「まぁな。」
偽りの名前を名乗ってはいたが、それでもね。見物人たちには姿という形での印象が残る。去年の大会ではこれこれ こういう剣士が勝ち残ってな。それって実は元海賊狩りだったって噂だぞ。そんな格好で語り継がれたらどうすんだと、あらためてウソップからまで諭されたもんだから。しょむない詭弁じゃあない“正論”が相手では、口で勝てないゾロとしては…うまく言い表せないままに已なく飲み込むこととなった“憤懣”が、どうしても飲み下せないままになって閊つかえている模様。そんな彼の態度に、
「何だよ。人が見てる前で勝ったぞ〜って声上げたがるよなタイプじゃないだろによ?」
いぶし銀のゾロじゃねぇのか? …何だそりゃ? いつだったか、ゾロの弟分ってゆってたジョニーがそんな風に言ってたじゃんか。自分の顔ほどもあった大きな握り飯をあっさりと食べつくしたルフィが、行儀は悪かったが指先をシャツの裾で拭いながら、ペタペタと歩み寄って来たのは、上甲板の柵に凭れてた剣豪さんのすぐ傍ら。板張りの上へ直に座ってる彼の真向かい、前方への視野を塞ぐように膝を折ってしゃがみ込んだルフィであり。こうまで至近に来てくれたのにね、むっつりしたまま相手を見上げて“何だよ何か言いたいのかよ”と、剣豪、今度は船長に八つ当たりですかいと思った筆者だったのだけれど、
「やぁっ!」
「だ〜もうっ。いきなりはやめろ。」
ぱふりとばかり、懐ろに真っ直ぐ倒れ込んで来た無邪気な王様。引き締まってて堅いけど、いい匂いがして暖かい、頼もしい懐ろの胸板にふかふかの頬を擦り寄せた船長。弾みで背中へとずり落ちた帽子を、ゾロが“しょうがねぇな”と大きな手で拾ってくれる気配を感じつつ、
「カッコよかったぞ?」
他でもない“俺”は知ってんだからサ、それで良いじゃんかと。にぱーっと笑えば、
「………そうかよ。」
間があったのは きっと。まぁなと応じるのは惚気にならんか、簡単に丸め込まれるのも癪だしな。そんなこんなを、ちらっとあれこれ考えたから。判りやすい奴だよなって、選りにも選ってルフィに思われていてはどうかと。(苦笑)
――― でも、一番強いのは俺だかんな。
ほほぉ〜、そうかな?
何だよ、違うってのか?
じゃあ今、ここで試してみっか?
せっかく温ったかいのに ヤなこったと。しししと楽しそうに笑った麦ワラの船長さんは、どうやらこのまま“昼寝モード”に突入したいらしくって。深くて広い、羊頭の次に大好きな特等席にて、猫の仔みたいに背中を丸めた船長さんの、その小さな背中をそっと、大きな手のひらが撫でてやる。あれほどの大騒動でさえ、彼らにはただの鬼ごっこか隠れんぼ。この航路が自分たちの信念や生きざまを試すかのような、そんな試練が山ほど盛り込まれた…大きな騒動や冒険に相対するまでの、ちょっとした息抜きみたいなものだったよなと、とんでもない感慨を苦笑と共に噛みしめて。さぁさ今度はどんな“試練”と出会いますやら。彼らには離れた島へと戻るのか、遠出していたカモメが一羽、風を切ってのなめらかな飛行で擦れ違う。その陰が舐めた無邪気な寝顔へ、この王様さえ居れば何も要らないと、和んだお顔をした剣豪だったのは………さぁてどんな宝箱に封じておきましょうかねぇ。(笑)
〜Fine〜
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*終わった〜っ。
何カ月もかけた割に、何だか尻すぼみな代物になってすいませんです。
お正月スペシャルにするつもりだったのに、
風邪を拾ったもんだから集中力が抜けちゃいましてね。
しかも色々とイベントがやって来る期間に突入したじゃああ〜りませんか。
オールキャラ話は集中力が命ですんで、はい。
以後、気をつけます。ではでは。
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